清澄山

<清澄山>
暁闇破る妙法弘通の第一声

 

 建長五年(1253)四月二十八日は、立教開宗の日である。この日、日蓮は妙法弘通の第一声を放った。末法濁悪の闇を破る大白法の出現である。
 この日の早朝、日蓮は朝日に向かい、題目を唱えたという。そこは、清澄山の麻綿原初日峰であった。後にこの場所は朝日森と呼ばれるようになる。
 初日峰、高天神、妙見の三山を総称して清澄山という。初日峰は、眼下に房総の海・太平洋が大きく広がる絶景の地である。
 海と反対側は、房総半島の内陸部へ広がる麻綿原高原である。麻綿原では、縄文時代の人々が集落を営み、祭祀を行った。
 麻綿原から富士が見える。
 遠く南アルプスの赤石山脈を背景にした富士の偉容――日蓮は、十二歳の時、清澄寺の道善房のもとに入門してから、折りにふれてこの富士を眺めていたことだろう。朝な夕なに富士の雄姿を望む若き日蓮の胸中は、いかばかりであっただろうか。
 日蓮は、後に一切の教説を日興に譲り、法華本門・事の戒壇建立の地を富士に定めた。富士は郡名であり、実名を大日蓮華山という。

 

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(箱根峠)


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