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プログラム・ノート

★ベートーヴェン Ludwig van Beethoven(1770.12.16-1827.3.26)
 序曲「コリオラン」Ouverture“Coriolan”c-minor Op.62

 コリオランの本名はケイアス・マーシャス。「プルターク英雄伝」に出てくるローマの英雄である。紀元前5世紀ごろ、一人でコリオーライの城を攻め落としたためにコリオランと呼ばれた。勇猛な名将軍だったが、悲劇的な最期を遂げたという。
 1804年、ウィーンの宮廷秘書官で詩人でもあったハインリッヒ・ヨーゼフ・コリン(1771-1811)は、コリオランを題材にした戯曲を発表する。ベートーヴェンは1807年に序曲だけ作曲した。
 この頃のベートーヴェンは、前年の1806年に交響曲第4番、ピアノ協奏曲第4番、ヴァイオリン協奏曲。翌年の1808年には交響曲第5番「運命」、第6番「田園」、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」といった不滅の名曲を次々と世に送り出している。この曲もそうした大作に遜色のない充実した内容を持っている。

★ベートーヴェン
 交響曲第9番「合唱つき」 Symphony No.9 d-minor op.125

 今世紀もあと1日で終わりを告げ、いよいよ新しき21世紀の開幕である。思えば20世紀は戦争の世紀であった。世界が平和であれという、人類だれしもが抱く願いとは裏腹に、束の間の平和は戦争と戦争との間に漂っていた。
 この百年の間に、自然環境の破壊が進み、地球は傷つき、大気は汚れ、オゾン層のすき間から死の光線が降り注ぐようになった。人々の心はすさみ、凶悪な犯罪が増え、庶民たちは民衆不在の政治のはざまで、にがい苦しみを味わわされた。
 21世紀は輝ける希望の世紀である。なぜなら、豊かな感性と賢明な英知を持ち、エゴを捨て、他を思いやる慈愛と優しさに満ちあふれて新世紀を生きる人間は、今世紀の愚かさを決して再び繰り返しはしないであろうから。新しき世紀の人類は、民族や国家、言語、風習、国籍や宗教の違いを超えて共に生き、共に連帯して新しい百年を建設していく。21世紀のキーワードは「共生」と「連帯」である。
 「おお友よ。この調べではない。もっと快い、喜びに満ちた調べに、ともに声を合わせよう……あなたの奇しき力は、時の流れが厳しく切り離したものを、再び結び合わせ、あなたの柔らかい翼の留まるところ、すべて人々は兄弟となる……抱き合え、幾百万の人々よ! この接吻を全世界に!」
 この詩には、ベートーヴェンの願いがすべて込められている。否、人類共通の願いが込められている。彼はシラー(1759-1805)が書いた8節93行から成る詩を、その原形をとどめないほどに書き替えた。第九で歌われる詩の全体は、ほとんどベートーヴェン自身の作詞といってよい。
 ベートーヴェンの一貫したテーマは“苦悩を突き抜けて歓喜へ”である。さあ、共に歓喜の歌を歌いながら、戦争の世紀を突き抜けて、平和と幸福の21世紀建設へ、共々に踏み出そう。

(第127回「宇宿允人の世界」演奏会プログラム 2000.12.30)

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