ふりがな版　目次

　佐保川と勝尾寺川は幣久良山の西麓で合流し、茨木川となって南に流れる。この辺りの河原を白井河原と呼んだ。昔は川を白井川といい、堤もなく、川幅広く自然に蛇行して中洲をつくり、ひき舟が福井まで上っていた。

　この河原は毎年初夏になると水辺を求めて蛍が集い、蛍の名所になっていた。村人たちは日暮れ頃になると酒や肴を持ち筵を敷いて河原に陣どり、蛍合戦を見物するのであった。子どもは菜種の茎を縄で束ねて網がわりにして、キャッキャッと騒ぎながら蛍を追っている。初夏の涼風が頬を撫でてゆく。
　やがて宵闇が濃くなる頃、遠くからゴーッという かすかな羽音が聞こえてくる。蛍の大集団である。東の集団と西の集団が、ちょうど白井河原の上空で ぶつかる。激しいもみ合いが起こり、相当数の蛍が まるで流星のように川に落ちてゆく。その壮観に、河原で見物する人々から思わず歓声をあがる。
　しばらくして 蛍の集団は いずれかに飛び去り、川辺には水を求める蛍が あかりを点滅させている。見物の人達も三々五々家路について、あとには せせらぎの音が聞こえている。